こんにちは、ファイナンシャル・プランナーの吉田です。
今回もライフデザインについて書きたいと思います。
具体的なお悩み解決もいいんですが、やっぱりお金のことを云々する前にもっと考えるべきことがあるだろうと思う性質なので書いておきます。面と向かって話するものでもないと思いますが、それだけにこういう場で共有できたらと思います。お付き合いいただける方はよろしくお願いします。
さて、皆さんはファイナンシャル・プランナー(FP)にどんなイメージをお持ちでしょうか?
お金の専門家?確かにネット上などで多く見かける肩書ですし、そう語られることも多いですね。
実はFPにも教科書がありまして、まあ資格ですからあるんですけど、それを読むと「FPの理念や目的」的なことが書いてあります。
例えばこんな一節。
「…個人の人生の目的は、より多様であり、ひと言でいえば『人生の幸福』である。パーソナルファイナンスの目的はこの『人生の幸福』を最大にすることであろう。人生の幸福は、その人の価値観に基づくライフデザインに表現される。」
FPテキスト「パーソナルファイナンス」より抜粋(以下引用文同じ)
確かに。みんな自分の人生の幸福を最大化するために生きているはずですね。でも何がその人にとっての幸福であるかは、その人によるわけです。だから価値観はみんな違うはず。
「ライフデザインとは個人の生き方のことであり、ライフデザインには個人の人生に対する価値観が表現される。」
仰る通り。生き方とは、その人そのものが表現されますね。
「これに対してライフデザインを具体化したものがライフプラン、つまり生涯生活設計である。…(中略)…ライフプランを数値化したものがファイナンシャル・プランニングにおける狭義の意味のライフプランである。」
なるほど。だいぶ分解されてきましたね。
つまり、
- ライフデザイン(各人の価値観)
- ライフプラン(価値観を見える化した人生設計図)
- ファイナンシャルプラン(さらに2を数値化して表したもの)
ということになるわけです。
しかし実際のところ、実務において、ほとんどのFPは(3)の段階にのみにフォーカスしています。
理念的には1から3の順番で流れていなくてはなりません。根っこの大事な部分、その人の価値観をしっかり把握するとともに、本当は本人も気づいていないかもしれない価値観を掘り起こし、本当に生きたい生き方は何であるかを議論し、パートナーがいれば価値観を共有したり擦り合わせたり、そうやってやっとできたライフデザインをプランという形に作り上げ…。
大変ですね(笑)
実際、深い部分でこれをするFPは恐らくいないでしょう。
考えてもみて欲しいのですが、個人の生き方の深い部分に携わることは大変な一大事業です。その人の人生を大きく変革するかもしれないほどのことです。だいたい世の中のほとんどの人は自分の本来したい生き方自体よくわかっていないものです。そんななかで生半可にプランニングすれば、それっぽいものしか出てこないことは明白です。
人生に関する書籍や映画や物語が古今東西絶えないのは、それほど深遠で厄介なものだからです。FP資格取りました、くらいでどうにかできるものじゃありませんよね。
そんなわけで、理念としては素晴らしいのですが実務としては難しいのです。まあこれは、あらゆる資格・業務でいえることですね。「私は出来ます、してます。」という人は、たぶん浅い理解しかしていない。
とはいえ、です。
ライフデザインがまずあってこそのライフプラン、これは間違いありません。
そこで今回はライフデザイン(個人の価値観)に関するところ、つまりその人の生き方に関わる大事な部分、「価値観」についてスポットを当ててみたいと思います。
自分や家族の価値観をあらためて確認してみる
「あの人とは価値観が合わない」などと、日常生活の中で割とカジュアルに使われている「価値観」という言葉。
この価値観という概念はかなり漠然としたものですね。
先ほどのFPの教科書でも「経済的価値観、文化的価値観、道徳的価値観、環境価値や地域の価値など」と集約していますが、分類はしていますが定義にはなっていません。
改めて考えてみるに、自分がどんな価値観を持っていて、家族やパートナーがどんな価値観を持っているかというのは、実は分かっているようであまり分かっていないことが多そうです。
何故かというと、上述のように一般的には漠然としたものだからです。
しかし、これまであらゆる分野において価値観の研究はなされてきましたし、また学際的にも研究されてきたようです。
こうした研究の成果を借りれば、それなりに見えてくることもあります。ある程度、類型化してくれているからですね。
今回、その中で心理学の分野における価値観の研究を取り上げてみたいと思います。
シュプランガーの6類型
まずは古典ともいえる、シュプランガーの6類型について。1922年、ドイツの心理学者シュプランガーによって作られた6種類の価値観類型です。
論理型・経済型・審美型・社会型・権力型・宗教型の6つに分類しています。
論理型 | 合理的であることを重視、普遍的・客観的であることを尊重する |
経済型 | 実際性・効用性・経済性を優先、最大限の利益を追求する |
審美型 | 美と調和を重視、芸術活動に情熱を傾ける |
社会型 | 他者との関係を重視、他社への献身や愛によって自己の充実を感じる |
権力型 | 権力の獲得に強い関心、他者を支配したり指導したりすることに喜びを感じる |
宗教型 | 宗教的な活動や神秘的な体験に対して関心を持つ |
割とそのまんまだと思いますので、説明は不要でしょう。
自分やパートナーの価値観はどこに一番当てはまるか、考えてみましょう。
シュワルツの10分類
自己決定 | Self-direction | 選択や創造、探求において自立した思考や行動を求める |
刺激 | Stimulation | 人生における挑戦、興奮と目新しさを求める |
快楽主義 | Hednism | 悦び、心地よい(官能的な)満足を求める |
達成 | Achievment | 社会的に良しとされる能力・適性を証明することを求める |
権力 | Power | 社会的地位と名声、支配力と抑制権を求める |
安全 | Security | 個人・他者・社会の安定と安全性、調和を求める |
従順 | Conformity | 他者を傷つけたり社会規範に反する行動や衝動を自制することを求める |
伝統 | Tradition | 文化や宗教的なものの慣習等を尊重し義務を果たすことを求める |
慈悲 | Benevolence | 既知の集団内における福祉の保護や向上を求める |
普遍主義 | Universalism | 全ての人や自然を守り、理解と感謝、寛容であることを求める |
次はシュワルツの10の価値観です。
こちらが面白いのは、10個の価値観はさらに4つの上位カテゴリーに集約できることですね。
まとめると
- 変化への開放性(openness to change)…自己決定、刺激、快楽主義
- 自己向上性(self-enhancement)…達成、権力、快楽主義
- 保守性(conservation)…安全、従順、伝統
- 自己超越性(self-transcendence)…慈悲、普遍主義
この円環からは、隣り合う価値観はより連続的で関係性が深く、距離が遠くなるほど関係性は弱まり、向かい合う価値観は対立する関係にあります。
夫婦を例にとると、傍から見ると似たもの夫婦でも、当人同士でみると案外と補完関係にありますよね。本人は「変化への開放性」が強く、配偶者は「保守性」が強いかもしれない。すると、バランスが取れているときは良いけれども、一方が突っ走ってしまったら、必ず対立が起こるということです。
もっと人生に刺激を求めていこうぜ!と思って行動しようとしても、いや皆の事を考えて自制しなさい、と諫められるかもしれない。
心理学者ではないので、この使い方が合っているかわかりませんが、私はそう解釈しています。
自分やパートナー、子どもはどういうタイプなのか、ここでも一定の尺度を得られそうです。
時代が変われば価値観も変わる?
最後に、時代によって価値観がどう変化してきたか、という観点でみてみましょう。
価値観というのは絶対普遍のものとは限らず、社会・文化・時代などの影響を色濃く受けながら変わっていく部分もあります。
NHK放送文化研究所では「日本人の意識調査」というものを50年近く行っています。この結果から、何となく日本人としての全体的な意識変化、価値観変化が見て取れます。
この調査のなかで、見田宗介氏の価値観類型を基に作られた設問がありますので、それを通して見ていきましょう。(類型等名称は参考文献※をもとに私が多少アレンジしています)
まず価値観類型について。ここでは、
- 社会的見地 … 自己本位的か社会(他者)本位的か
- 時間軸 … 現在志向か未来志向か
に分け、ここから4つのマトリクスを構成します。つまり、
- 現在志向・自己本位的 …「快」
- 現在志向・社会本位的 …「愛」
- 未来志向・自己本位的 …「利」
- 未来志向・社会本位的 …「正」
として、どこに当てはまるか見るわけですね。
快は「その日その日を自由に楽しむ」、愛は「身近な人たちと和やかな毎日を送る」、利は「しっかりと計画を立てて豊かな生活を送る」、正は「みんなと力を合わせて世の中を良くする」
と設問とマトリクスを対応させています。
設問の仕方や価値類型の定義がややどうなのか?と思うところはありますが、50年近く同じ設問をしているわけで、確かに価値観変化がどう変わったか分かりやすい。
その調査結果の推移をグラフ化したものが下の図です。
こうしてみると、未来志向(利・正)が下降トレンドで、現在志向(快・愛)が上昇トレンドなことがよく分かりますね。
推測するに、70年代ごろはまだまだ未来に対する不安感は少なかったのでしょうね。しかし時代を経るにつれて未来への不透明感が増していることが、現在志向性に現れていると思います。
また明らかに、皆が同じような生活様式だった70年代と比べ、個人化・多様化がより進んだことで、「正」が大きく減り「愛」を重視するようになった。
つまり今は「内々の小さなコミュニティ」を大事にする時代になったということでしょう。
まあそんな分析は程々にして。
ファイナンシャル・プランナーとしては、「利」の部分、「しっかりと計画を立てて豊かな生活を送る」に注目してしまいますね。
これに関しては下降トレンドであることは間違いありませんが、下げ止まっているようにも見えます。
私自身は「利」を重視することが正しいとか素晴らしいとか、そういった判断はしていません。あくまでも価値基準の変遷を観察している、という感じです。
そんななかでも、私たちは時代とともに生きているわけで、その時代の流れの中でどういった価値観とともに歩んでいるのか知ることも大事です。
皆さんならいかがでしょうか?
まとめ:じっくりと自分の価値観を見つめてみよう
さて価値観について、2つの価値観類型と時代の変遷による価値観の変化についてみてきました。
ここから、自分の価値観とは一体どんなものかなと眺めるもよし、その価値観はどこから来たものか考えるもよし。
例えば、自分の価値観は親の影響を大きく受けていると感じるとか、社会人になってその勤務先で植え付けられたものが実は大きいとか、ある本やネット情報のようなピンポイントの物事に多大な影響を受けたとか、色々あると思います。
そもそも自分の価値観とは本当に自分で考えて形成された価値観なのか?とか。誰かからの借り物ではないの?とか。
20世紀の社会心理学者の巨人のひとり、エーリッヒ・フロムは著書の中でこう言っています。
正常あるいは健康という言葉は二様に定義することができる。第一には、活動しつつある社会の立場からである。すなわち、ある社会のなかで、かれが果たさなければならない役割を果たすことができれば、かれは正常あるいは健康ということができる。もっと具体的には、それは、その特定の社会のなかで要求されている流儀にしたがって働くことができるということ、さらには社会の再生産に参加することができるということ、すなわち家族を作っていくことができるということである。第二には、個人の立場からである。このばあいには、われわれは個人の成長と幸福のための最上の条件を、健康あるいは正常と考える。
もしある社会の構造が、個人の幸福にたいして、最上の可能性をあたえることができるようなものであれば、二つの見方は一致することができよう。しかしわれわれの社会を含めて、われわれの知っている社会では、ほとんどこのようなことはおこらない。(中略)…社会の円滑な機能という目標と、個人の完全な発達という目標とのあいだには、分裂がある。このために、健康についての二つの概念のあいだに、鋭いわかれが必然的に生ずる。一つは社会的必要に支配され、他のものは個人の存在の目標についての、価値と規範とに支配される。
エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』
要するに「アイツは変わったやつだ」と思われていない大多数の一般的な人は、本当のところは個人的自我を埋没し社会に求められるものを忠実にこなす、あるいは世間の空気に支配されて生きているのだろう。それによって個人的な幸福を最大限発揮できるのか?それは難しいだろうという問いかけなわけです。
…ここまできたらもう大変ですね(笑)
冒頭で書いた、FPが本当のところではライフデザインを議論できないとする理由です。
ここから先は個人で考えていくことですね。
価値観研究はまだまだ奥深く、私なんぞが生半可に語るわけにはいきません。もし興味が出てきたら、さらに調べてみてください。
FPとして言えることは、ライフデザインとはその人の生き方=その人の価値観が反映されたものです。そして、それに基づいてお金のプランニングはされるべきものだと思います。
お金のプランニングさえできれば「人生ハッピー」なわけがないですよね。
ライフデザインが主、お金は従。
おひとりで生きていくにせよ、パートナーと共に歩むにせよ、どのような生き方を志向していくのか、それをこうした価値観類型をひとつ手掛かりとして、考えるきっかけになれば面白いと思います。
あ、そのうえでFPのプランニングもご依頼してみてください。承っておりますので(笑)
※参考文献:花井友美 『「価値観」をめぐる諸研究ー国家・民族・時代による価値観の違いー』(2007)