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Q:米国株に集中投資って、おすすめですか?

こんにちは、FPの吉田です。

今回は米国株について話してみたいと思います。

FPが資産運用を語るとき、『長期・分散』の考え方をベースにして話をすることが多いと思います。

分散投資はリスクを低減させるための重要な方法でして、仮にFP自身は分散投資していないとしても、相談者に対しては「分散投資はリスク低減に対して有効です」と説明します。

自分の投資に対しては自己責任ですが、相談者に対しては投資の判断材料となる理論などの提供は不可欠だからです。

ただ分散投資は万能ではありません。分散投資はリターンを損なうことなくリスクを低減できるともされていますが、単純に投資リターンだけを考えれば、集中投資の方が遥かに効率が良い場合がままあります。

エネルギーを分散させるよりは集中したほうが、より大きな仕事ができるのと同じ感覚ですね。

とはいえ結果の当たり外れもダイレクトに影響を受けますから、集中投資はリターンも大きいぶんリスクも大きくなるわけです。

日がな一日トレードしているような投資のプロでもない、私たちフツーの人々が集中投資をしてはいけない理由はここにあります。私たちは「預金よりもうちょっと金利が付けばいいな♪」という感覚で行うお金の運用のはずです。その場合なら、やっぱり分散投資が王道です。

でも…

もう何年も前から「投資するならコレ一択っしょ!」とばかりに大人気の投資資産がありますね。それは何でしょう?

そう、それは米国株。

とくに投信ブロガーなどのネット界隈の一部には熱心な支持が見受けられ、一般にもずいぶん影響を与えてきたと思います。

米国株というのは、個別の米国企業を指す場合もあったり、米ダウ・ジョーンズ工業平均やS&P500種指数などの株価指数を表す場合もあります(要するに日経平均のようなもの)が、いずれにせよ、

「投資するなら米国市場一択」

という考え方ですね。

まあ一択とまで極端でなくても、そのほとんどを米国市場に捧げるという投資スタイルこそが普通に考えて最も王道なんですよ、ということです。

これにはいくつか理由があると思いますが、代表的だと思われるのは、

投資・運用といえば米国であり、株式投資の歴史・実績・理論などは米国を中心としたものだから

というところでしょう。

投資や運用に関する様々なセオリーや実証研究は米国を中心とした話であり、さらに市場規模としても最大を保ち続けているのだから、投資=米国であって、その他は添え物であるということです。

これはある意味、よく分かる話です。と言いますか、私自身、その意見にはわりと賛成寄りです。

長らく金融の中心地として位置し続ける米国。金融だけではなく産業の面でみても、いまだGAFAMの牙城を崩すような企業は現れず、中国?インド?いやいや、やはり強いアメリカ、米国独り勝ちの様相はそう簡単に覆りそうもありません。

例えば世界の株式時価総額ランキング。2022年1月現在のランキングをみると、

  1. アップル(米)
  2. マイクロソフト(米)
  3. サウジアラムコ(サウジアラビア)
  4. アルファベット(米)
  5. アマゾン(米)
  6. テスラ(米)
  7. メタ(米)
  8. バークシャー・ハサウェイ(米)
  9. エヌビディア(米)
  10. 台湾積体電路製造(台湾)

10位までの実に8社が米国企業で占められています。そしてこうした傾向は、ここ10年や20年程度では大きく変わっていません。バブル華やかなりし頃の日本企業が上位を占めたり、台頭してきた中国企業群が全体的にシェアを増やしたりする時期はありましたが、やはり米国企業群が順位・シェア共に中心であり続ける構図はあまり変わらないのです。

だって先程も書きましたが、GAFAMに取って代わるような他国の企業って思い浮かびますか?

浮かびませんよね。

こうしたことから、これから20~30年程度のタイムスパンなら米国の経済・産業・企業・株式市場がまだまだ強かろうという結論になるのも分かりますよね。

しかし、本当にその見立ては盤石だと言えるのでしょうか?

目次

米国企業に投資すれば、本当に安泰か

最近みたニュース記事で、こんなのがありました。

Impress Watch
ソニー、自社でEV参入。SUVの新型VISION-Sも披露 ソニーグループは、自社でEV(電気自動車)に参入する。CES 2022において、吉田憲一郎社長が新しいSUVタイプのEV「VISION-S 02」とともに新会社ソニーモビリティの立ち上げを...

あのソニーがEV(電気自動車)に参入すると。ソニーが自動車会社になるってことですか?確かに、ソニーモビリティという新会社を立ち上げたそうなので、もうその気満々ですね。

ソニーといえば、近年はデジタルカメラなどに装備される『イメージセンサー』の会社という印象が強いのですが、確かにこの技術をふんだんに使ってEVを作っているのは間違いないようですね。

そして、この技術を単に既存の自動車会社に提供するというのではなく、自社で自動車を作り上げていく選択をしたわけです。何と言いますか、新たな時代に向けた「自動車の再定義」をしていくのでしょうか。

もうひとつ、台湾の鴻海テクノロジー・グループがこちらも電気自動車3台を公開したというニュース。

Car Watch
台湾フォックスコン、EVモデル3台を公開 SUVとセダンとバスを開発  台湾の鴻海テクノロジー・グループ(Foxconn:フォックスコン)は10月18日、同日開催した「Hon Hai Tech Day(HHTD21)」において、3台のEV(電気自動車)を公開した。

こちらも自社開発のEVということで、2026年頃には世界売上高4兆円規模を目指していくそうです。自社EVの販売だけでなく、EVプラットフォームの供給も含んでいると。

電気自動車といえば米テスラ社が思い浮かびますが、既存の自動車メーカーやこうしたソニーや鴻海などの他業種からの参入も含め、いま大変熱い産業だといえます。

しかしここで面白いのが、ソニーといえばイメージセンサーですが、そのセンサーはアップルのiPhoneを始めとするスマートフォンに搭載されているということ。そして鴻海といえば、iPhoneなどのアップル製品の組立・生産工場としても世界的に名高い。

そして、アップルといえば自動運転車を作ることを目指していますよね。しかし現在のところニュースはあるものの、具体的な姿は見えてこない。またグーグルも自動運転車の開発に早くから力を入れていましたが、こちらもなかなか全体像は見えてきません。

電気自動車と自動運転車という大きな違いはあれど、こうした様子から、何かが変化する予兆なのかもしれないという感覚を私は抱いてしまいます。果たして米国企業群がこのまま大きなシェアを握り続けるのか?本当に変わらない?

アップル製品の部品を担う会社や生産を担う会社がこうして台頭してくるのを見た時に、

「あぁ、永遠不変なんてものは無いよな…」

という当たり前のことが頭をよぎるわけです。

もちろんソニーや鴻海の参入が上手くいく保証など何もなく、電気自動車産業が大きくなるのか、より速いスピードで自動運転車が開発されていくのか、アップルやグーグルがやはりとんでもないものを発表してくるのかなど、先のことは分からないことだらけです。

でも少なくとも、アップルがテクノロジー企業として今後10年・20年安泰だ、と思うことも、勝手な思い込みに過ぎないと思うのです。

米国市場を世界システム論で考える

唐突ですが、近代の世界史を概観する場合、「近代世界システム論」をベースにすることが今やスタンダードとなっているようですね。

今の若い人は、歴史の教科書でこの世界システム論を習うそうですが、私のような世代は、まだまだ「一国史観」に囚われています。つまり歴史というのはその国の内部で起こったことがほとんど全てであると。したがってこの見方をすると、その国の内部で独自に1次産業、2次産業が発展していき、いずれ他の先進国と肩を並べるという「発展段階説」を採用しがちになります。

しかし大航海時代以降、外部環境の影響を無視してその国の歴史を語ることはできず、世界はシステム的に相互作用があると考えるのが近代世界システム論です。特にその利益を一手に受ける「中核」国と、中核に食料や原材料などの様々な便益を提供しながら自身は低開発に固定化される「周辺」の国々によって世界はシステム化されているという見方を世界システム論ではします。

いきなり何の話やねん!と思われるかもしれませんが、ここは大事なのでもう少しお付き合いください。

世界は一体化された分業体制の中でそれぞれの役割を担っている。このなかで余剰を吸収できるところが中核地域となり、吸い上げられるところが従属地域となる。

こうしたシステムで中核を担った国の中で、世界の覇権を握るまでに至った超大国があります。これをヘゲモニー国家と言いますが、そんな覇権国家は過去に3つしかありません。

オランダとイギリスとアメリカです。

17世紀のオランダ、19世紀のイギリス、そしてそれ以後のアメリカ合衆国と順番に覇権は変遷してきました。

ヘゲモニー国家には特徴があって、まず工業化して覇権を握り、次いで商業化の段階を経て最後は金融に至ります。

覇権の期間は長くは続かないものの、その後はだらだらと金融の面で世界に影響を与え続けるのですね。そして覇権国家から転がり落ちたとしても、別に低開発国になるわけではなく一定の地位を保ち続けます。現在のイギリスもオランダもそうですよね。

アメリカは第二次世界大戦後、覇権国家としての隆盛を極めましたが、ベトナム戦争あたりから、その地位を喪失していきました。しかし現在でもその強い立場は維持されています。

現在の世界は、この世界システム論でいけば、次のヘゲモニー国家が登場するのか、あるいはまったく違う形に落ち着いていくのか(多極化など)、そこははっきりと見えない状況が続いています。

アメリカにしても、工業、商業、金融と産業の中心は変わっていきました。2008年の金融危機でいったんは金融の面でも終わったのではないかと思われましたが、テクノロジー化の勢いでまた違った様相を見せ始めています。

ここまで見てきて、いかがでしょうか?米国株投資一択というのが、本当に「正解」なのか、考えてみたくなる話かもしれません。

少なくとも「時価総額ランキングでは米国株が上位なんで~」などという言説だけでは心許ない気はしますね。

ということで今回はここまでにしたいと思います。

あ、でも世界システム論でいうところの”余剰を吸収できるところが中核地域”というのは、ちょっと考えるヒントになるかもですね。「余っている」って何だろうと考えると次の何かが見えてくるかもしれません。いや私もそれが何かはわかりませんが^^;

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